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チアに挑む青年らの奮闘を描く、超特急主演映画『サイドライン』

〜本記事は映画ライターになりきってお届けします〜

 


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映画『サイドライン』は、2015年に公開された超特急初の主演映画で、ひょんなことからチアリーディングに挑むことになった超特急扮する7人の青年たちが、チアを通して成長していく青春群像劇。同じ事務所の先輩であるももいろクローバーZでいう『幕が上がる』(15)のような作品で、メンバー全員を主役として主題歌も超特急が担当している。超特急のメンバー7人のほか、真琴つばさ浅見れいなといったベテランキャストや、ゴールデンボンバー歌広場淳ら交流のあるタレントが脇を固めている。

主演映画らしいと思う部分は多少感じるものの、軸となるストーリーや、“映画では描かれない部分”のキャラクターのバックグラウンドなどに厚みがあり、中心人物はもちろんだが、その家族などきっと誰かしら感情移入してしまう個性豊かなキャラクターが顔をそろえているのがこの作品の魅力の一つだ。

 

 

 

 

1.『サイドライン』のあらすじ

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架空の町・宇佐木町(うさぎちょう)で生まれ育つが、歳を重ね疎遠気味になっていた幼馴染の青年7人。就活に苦戦し将来から目を背ける大悟(ユースケ)や、留学したは良いものの思うようにいかず一度帰郷する宇宙(カイ)、本当はダンスがやりたいという気持ちを隠しつつ家業の青果店を継ぐ貴章(ユーキ)らは、ある日ハナ(岩崎未来)という少女に出会う。そんなハナに導かれるようにして、さまざまな理由をきっかけに再び馴染みの地“宇佐木神社”に集まった7人は、年に一度開催されるお祭りでイベントを任されることに。なにをやるか日々悩むなかで、ハナの母・うさぎ(浅見れいな)が、交通事故で夫を亡くし引きこもっていることを知ると、「彼女を励ましたい」という想いからチアリーディングに挑戦することを決意。練習を開始する彼らだが些細なことをきっかけに口論が始まり、衝突やすれ違いを重ねてしまう。

主人公となる“青年団”こと7人の幼馴染らは、当時の彼らの実年齢と同じくらいの設定(18〜20くらい)だと思うのだが、この時期といえば、一番将来の不安を抱えたり、進路を決めたは良いけど上手くいってる人に羨望感を抱いたり、上手くいったと思ったのに足踏みしてしまったりと、かなり多感なお年頃。

また、浅見れいな演じるうさぎは、娘に対して申し訳ないという気持ちは当然ある一方で、どうしても外に出られない、そしてそんな自分に嫌気がさしてまた自己嫌悪に陥って……を繰り返してしまう難しい母親。家の中ではハナとコミュニケーションを取ってはいるものの、時に部屋から出ることもなく、ドア先で呼ぶハナに「ごめんね」と小さく謝るという、胸を刺されるような描写が印象に残る。青年団の前では年相応の無邪気な姿を見せるハナだが、うさぎの前になると気を遣って無理に関わろうとはせず、母が自発的に動こうとするのを待つ、そんな大人びた娘だ。

 

 

2.登場人物

[青年団(超特急)]

登場人物は下記の通り。なお、青年団のメンバーらの名字はいずれも日本全国の神社の名前に由来している。

 ・大山賢将(おおやまけんしょう)/コーイチ
大悟の従兄弟で、7人を見守るお兄ちゃん的ポジション。しっかり者かつ料理上手で神社に集まるメンバーに食事を作る担当。

・久能宇宙(くのそら)/カイ
幼いころに両親が他界しており、天野家(大悟の家)で育つ。アメリカの工科大へと留学するが一時帰国中。気配り上手で、ハナへの接し方が抜群に上手い。

・大和日向(やまとひゅうが)リョウガ
本の読み聞かせが得意な保育士。自宅が雨漏り修理中で天野家に居候中。保育士ながら対子どもが得意ではなく四苦八苦している。

・伊勢信矢(いせしんやタクヤ
花屋の息子で自身もそこに勤めている。高校時代、大悟とともに陸上に打ち込んでいたが、あることから喧嘩し疎遠に。チャットでのハンドルネームは“ミドリ”。

・中臣貴章(なかとみたかあき)/ユーキ
青果店の息子でそこで働いているが、ダンスが好きでその夢を捨てきれていない。親にはそのことを話さずに、店を継ぐような素振りを見せている(けど親は気づいてる)。

・天野大悟(あまのだいご)/ユースケ
神社の息子。「めんどくさい」が口癖で、就活に苦戦中。やる気のないような雰囲気だが、将来に内心焦りを感じている。

・大国博巳(おおくにひろみ)/タカシ
商店街を脅かすショッピングモールのオーナーの息子。その広報を担当しているが、心の内では幼馴染の味方をしたいので葛藤中。

 

[青年団の家族]

天野仁(あまのじん)山崎銀之丞
大悟の父で宇佐木神社の宮司。穏やかな性格で、青年団の成長を見守っている。

・中臣紀里(なかとみきり)真琴つばさ
貴章の母。町内会長を務めており、町内のイベントなどを仕切っている。

・大国猛(おおくにたけし)/舘形比呂一
ショッピングモールのオーナーで博巳の父。経営者よろしく商店街を脅かすが、内心息子のこと応援している様子…?


[八上家]

・八上うさぎ/浅見れいな
ハナの母。交通事故で夫を亡くして以来、鬱気味で家から出ていない。お互い気づいていないが、信矢とはチャット仲間。

・八上ハナ/岩崎未来
8歳で無邪気な性格ながら、非常に母思いの優しい少女。母と一緒に外に出たいと願う。

 

[友情出演]

・フラワー様/歌広場淳
正体不明の謎の存在。

 

 

3.『サイドライン』の魅力

①監督が作りあげた、7人の個性あふれるキャラクター

本作の監督は、2.5次元ファンなら誰もが知るであろう“生執事”こと、ミュージカル「黒執事」で構成・演出を手がけるほか、『愛を歌うより俺に溺れろ!』(12)で監督・脚本を務める福山桜子。三谷幸喜の助手なども務める彼女は、監督であると同時に役作りなどの指導も行う“アクティング・コーチ”も担当しており、本作でも念入りなワークショップが行われたという。

『サイドライン』は超特急主演ということもあり当て書き*1で制作されている。個人的に面白いと思ったのは、7人に与えられた役柄が「本人と真逆だけどどこか共通点も感じる」「本人にそっくりだけどちょっと違う」の二極化している(と感じる)ところだ。

例えば、ストイックで物腰の柔らかいユースケ演じる大悟は、とにかくめんどくさがりで一生懸命やってる人を鼻で笑うような性格だが、根は明るく誰かのために頑張れる素直な青年。楽しく遊ぶ6人とハナのなかに混ざれず一人隅に座っていたりと不器用な面も持つ、20歳前後ならではのキャラクターだ。
一方の貴章は、ユーキをそのまま投影したかのような熱く賑やかで己の温度で周囲も巻き込む熱量を持ちチアも率先して動くキーマンでもある。しかし、やりたいことを胸に秘めてしまっておいてしまうような内向的な側面は、ユーキの発信力の強さとは真逆だとも言えるだろう。

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さらに、2時間の映画のなかでは収まりきらなかった関係性などもパンフレットやノベライズ版には描かれている。
相性の悪い先輩がいたために中学から続けてきたサッカーを諦めた信矢の才能を見初め、自身の所属する陸上部へと誘った大悟。しかし、あっという間に自分を追い抜いてしまった信矢に嫉妬し、陸上部を辞めてしまったという過去を持ち、それがスクリーンでは互いを見る険しい顔にあらわれている。

余談だが、この「圧倒的な実力を持つ一方に、他方が嫉妬するが、実力を持つ方が実はもう一方を信頼していたために起こってしまったこと」という関係性を持つ作品がほかにある。それは、超特急を始め北村匠海佐野勇斗らEBiDANが出演する「FAKE MOTION -卓球の王将-」だ。さらにいうと、この関係性はいずれもタクヤとユースケで描かれる。サイドラインで映しだされるのは、FAKE MOTIONの“西郷と大久保”、ひいては“タクヤとユースケ”に通じるアツい関係なのだ。


そんな成人前後の若者よろしく、少し厄介で繊細な部分を抱えるリアルさが共感を生んでいると考える。就活への焦りから自暴自棄になってしまったり、夢に近い場所にいるはずなのにあと少し手が届かなかったり、やむを得ず夢を諦めようとしたり、夢を追いたい気持ちと地元に残りたい気持ちの板挟みになったり、自分のいまの場所でやっていることがいまいち上手くいかなかったり、喧嘩別れした親友との関係をいまも引きずっていたり、親の前では自分を出せなかったり。もちろん、そんな子どもたちの葛藤を目の当たりにして、親としてどう接するべきか、そういった家族の悩みもわずかながら描出されている。そんな個々の悩みの大小や、悩みとの向き合い方に“器用さ”“不器用さ”が現れているのも、非常に個性的で「わかるなあ」を生み出す一つのきっかけになっているように思う。

 

②頑張る人をそっと励ます主題歌「HOPE STEP JUMP」

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気にはなるが、なかなか食指が動かないという人は、まず主題歌の「HOPE STEP JUMP」を聞いてみてはいかがだろうか。サイドラインをぎゅっと凝縮したかのような楽曲であるHOPE STEP JUMPは、頑張っているけど挫けてしまった人に手を差し伸べる応援歌となっている。主題歌らしい王道のキラキラとしたサウンドは、どこか聞いてて心地がよく、歌詞もただ鼓舞して背中を叩くというわけではなく、辛く苦しい気持ちを理解、共感して前を向かせてくれる内容だ。

 


超特急「HOPE STEP JUMP」from EUPHORIA@パシフィコ横浜

公式のライブ映像なのでぜひご覧ください。

個人的に一番グッとくるフレーズは、2Aの「本気で やったから ツラいんだよね? 誇らしく 胸張ってよ」という部分。この作品の登場人物もそうなのだが、決して手を抜いたり怠けているわけではなく、しっかりと正面から向き合って力いっぱいぶつかっていったからこそ「こんなに頑張ったのに」という反動が襲い、再度立ち上がるのに時間を要する。当然劇中に限らず日常生活でこれはよくあることで、そんな頑張っている人には非常に刺さるこのフレーズがとてもお気に入りだ。

超特急の楽曲はかなり現実的な歌詞であることが比較的多く、ポップなサウンドに反して少し影も見えるというリアリティが引き込まれる魅力だと考えている。そんななかでもこの楽曲はかなり明るく前向きな仕上がりで影のような部分は感じられない。しかし、ネガティブな感情を優しく認めてすくい上げる懐の深さを持っており、それが押し付けがましくならないこの柔らかな応援歌の礎となっている。

再び余談だが、上記でリンクした公式のライブ映像ではメンバーが客席内を走り回っているにも関わらず、8号車と呼ばれるファンがメンバーに触りにいくことなくジッとペンライトを振り続けたりコールをしたりと、治安の良さを伺うことができる。そういった超特急と8号車の関係も交えながら、このあとも引き続き語っていきたい。

 

 

③信頼と団結のもとで完成する“チアリーディング”

上記でも話した通り、本作では「チアリーディング」を題材として彼らの成長を描き出していく。なお、タイトルの“サイドライン”とは、チアリーディング用語で「掛け声」というような意味だ。劇中のキャラクターはもちろん、超特急もチアリーディングは初挑戦で、Blu-rayやDVDの特典メイキング映像には撮影に向け日々練習を重ねる超特急メンバーの姿が収められている。

natalie.mu


劇中では、家に引きこもるうさぎに勇気を与えるべく、ベランダからも見えるような高さまでジャンプする大技に挑戦しており、その大技の成功の可否がうさぎへの想いやイベントそのものの成功へと繋がる鍵となる。そんな大技も含めたチアの技の数々は、当然メンバーの肩や足に乗ることが多い。下となるメンバーは、上のメンバーが安心できるようしっかりと支え、上のメンバーは下のメンバーに己を委ねポーズを決めていく。この信頼関係があってこそ、チアリーディングは成立する。彼らの絶対的な絆が土台にあったからこそ叶った作品だと考えている。

信頼関係はメンバー間だけではない。HOPE STEP JUMPの音源には、抽選で選ばれた8号車のコールがあわせて収録されており、さらにこのコール自体も事前に募集・決定された8号車特製のコール*2なのである。先ほどリンクを掲載した動画からもわかる通り超特急のライブはメンバーと8号車のコールアンドレスポンスが大きな要素であり、ライブでHOPE STEP JUMPが披露される際には、劇中内の(コールとは異なる)掛け声やチアの振り付けがステージ、客席ともに行われている。このように、メンバーと8号車の間でも築かれた信頼も、サイドラインやHOPE STEP JUMPを作り出す要素の一つだ。 

 

 

4.おわりに

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心の内では「このままじゃいけない」と思っている7人が、ハナとうさぎを通して成長していく姿を描いた『サイドライン』。なお、本作は2015年の「京都国際映画祭」の特別招待作品に選出されている。7色のスーツに身を包んだ超特急と桜子監督の姿が鮮やかで華々しい。
少なくとも当時は、演技経験の豊富なメンバーとそうでないメンバーがいたが、彼らの演技力が遺憾無く発揮されていおり、衝突シーンや感情があらわになる箇所では胸がキュッとなってしまうほどだ。

そんな彼らが今後見せてくれる、アーティストとしてはもちろん役者として活躍する姿にも注目していきたい。

 

  

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小説 サイドライン

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ssssssato.hatenadiary.jp

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*1:キャストを見てから脚本を書くこと

*2:もともと8号車発祥のコールも多いのだが、SNSなどを通じて徐々に広まったり、メンバーが先に提案するというパターンもあるため、このような最初から決まっていることはこれが初めてだった